伝統製法でお酢を造る、サガビネガーの右近雅道社長にインタビュー



サガビネガー

プロフィール

有限会社サガビネガー

1832年(天保3年)右近酢創業
1987年(昭和62年)有限会社サガ・ビネガーへと合名会社として法人化

創業当時から受け継がれた酢酸菌で、180日間静置発酵によりこだわりのお酢を製造

5代目右近雅道社長
1968年(昭和43年)18歳にて代表取締役に就任
島津技師に師事し、新たな製品造りを目指す

2020年10月14日、15日
佐賀にある老舗のお酢メーカーのサガビネガーさんに行ってきました。
工場を見学させていただく前に、併設されているお店でお話しを伺いました。

サガビネガー

見学会を開催

――明日は見学会があるとお聞きしました。見学の方がたくさんいらしているそうですね。

見学できるように少しずつ改善し、勉強会みたいな場所も作ろうと考えています。

――ここの施設の中に

ここではなくて隣の駐車場に大体20名、30名ぐらいは入る場所があります。
今年はコロナでそんなに見学者はいらっしゃいません。また 全国でお酢の製造会社は少ないんですよ。全国でも140社ぐらいしかありません。

で、ここ九州や四国、中国に大体7割ぐらい集まっているんです。気候が温暖なところに酢屋さんはあるんですね。
だから鹿児島の黒酢なんかもそうですが、やはり気候が暖かいから、お酢は造りやすいのです。そういうことで、九州では今50社ぐらいあります。だから見学にはこういう業界が珍しいのでしょう。
お客さんにとっては造り酒屋さんはよく見るけど、お酢屋さんというのを普段見ることないので、それで見に来られます。

弊社には昨年は900人ほど、バスで来られました。
うちのほうもやってみて、いいPRになるし、どんどん奥のほうまで見てもらってます。

で、今日もそのまま見ていただいて、説明とか、いろんなお話ができればと思っています。

――ありがとうございます。YouTubeで見学会の動画も拝見いたしました。

お酢やお味噌を造っているところなどを流しています。
PRのやり方が昔とは変わりました。

にごり酢とは?

――今造っていただいているりんごのにごり酢はどういったものでしょうか?

基本的な味は従来のりんご酢と一緒ですが、違いはアルコールを加えないで静置醗酵法による仕込みをします。そのため「純りんご酢」と、表示できます。

――純リンゴ酢ということで、わかりました。これ、まずリンゴ酢がにごり酢として出て。

そうですね。

――あと米酢。

そうですね、米酢もありますし、黒酢、それとか柿酢。

にごり酢 というのは、殺菌は低温殺菌でやるんですけど、濾過をしないんですね。

あえて濾過をしなくて、濁った状態で出しますので、濁り酢という表現になります。

それから、普通はお酢というのはきれいに濾過をし透明にします。

しかし、にごり酢はその透明感がなくなるわけですし、それが今トレンディになってきて、

酢酸菌が入っているということをあえて言っています。

表現的には濾過をしないということを書いていけると思います。

にごり酢

――従来であれば濾過というのはフィルターのようなものをかけるイメージなんですよね。それがなくなったということなんですね?

そうですね。珪藻土という濾過助剤を使って、ある程度酢酸菌やいろいろな含まれるものを取ってしまって、きれいな透明にしてしまうんです。
そうすると、大体2年以上もって、日持ちがいいんです。
それと加熱も72、73度ぐらいで、完璧に酢酸菌を殺してしまいますが、今回は低温の殺菌で濾過はなし。ゴミだけの除去ということで、非常に目が粗い濾過器がありますので、それを使ってやるということになります。そうすると、ちょっと半透明、濁ったような酢ができるんです。
とりあえずリンゴ酢を先に進めたいということでしたので。

あと、リンゴ酢も今貯蔵をしている分と、そののちのために発酵している樽があるんですね。そこら辺も見ていただければ、仕込み中のりんご酢が30度ぐらいの品温で発酵しているな、ということがわかると思います。

――未濾過のお酢って、味とか使い方とか、従来のものとどんな違いがあるんでしょうか?

今、私のほうで出しているりんご酢は甘さを残しているのですが、今回のにごりりんご酢はあまり糖分が残らないんですね。ですから、酸味だけで言うとちょっと酸っぱいんです。

――アルコールを添加しないほうが酸味が強くなる。

りんごの糖分がアルコールに変わりアルコールが酸味に変化します。
そのため、甘味は少なくなります。

酸の度合(酸味)は、4.8パーセントのため決められた酸度になるように若干の水を加えます(加水)。結果的に酸度は4.8%になり、今と同じ酢になりますが、ただ糖度がちょっと少ないんですね。その分お酢を感じてしまいます。でもそれが本来のアルコールを添加しないリンゴ酢と思っていただいて。

リンゴ酢

――ノンアルならではの、ということなんですね。

そうですね。それをそのまま低温殺菌で瓶詰めするという方法をとります。

――酢酸菌について簡単にお聞きしてもいいですか?もともとお酒に酢酸菌を入れてお酢にされる。その酢酸菌が濾過しないことでそのまま残る。そういう理解で合っているわけですよね?

そうですね。お酢に含まれる酢酸菌が健康に良いと、少しずつ見直されたのはまだ新しいんです。

酢酸菌がアルコールを酸化させてお酢にしますので、その出来上がったお酢が体にいいということで、今までの長い歴史の中では、酸を重視してきたんです。

ところがここに来て、酸を作る菌、つまり酢酸菌がいいということで、一部の酢関係者はろ過をしないお酢を出したんです。

それがテレビとかで取り上げられたり、NHKで話題になったりして、一気に広がったのが最近です。

酢酸菌

それまでは酢酸菌は普通取り除いて、除去するものだと思っていたんです。
というのは、酢酸菌が実は悪さをするんですね。

濁るだけではなくて、原料由来による酢本来の芳香な香りも損なわれます。
つまり味も落ちますけど、香りもものすごく悪くなるんです。

ですからそういうのが出ないように、強い殺菌と強い濾過をして出していたのが今まででした。けれども酢酸菌が注目されたら、酢酸菌を残そうということでお酢業界のほうも動いてまして。
酢酸菌を残そうということは、そのまま貯蔵の状態の酢をそのまま容器詰めにすること。

で、弊社でもお客さんが酢酸菌が入っているお酢がほしいということで、リンゴ酢を出しているんです。
酢酸菌の需要はブームとは思わないんですけど、一つの商品として見るべきものなのかなとは考えています。
だからはっきり言ってどの程度これから先この酢酸菌入りのお酢、濁り酢が継続していくのかわかりません。しかし、逆に今チャンスなんですよね、売り込むには。

お酢を 造る工程は、アルコールを造り、そのアルコールに菌を加えて、その菌がアルコールを酸化して、どんどん酸っぱくしていくんです。で、酢の元になる活動をするのが酢酸菌。

各お酢屋さんがそれぞれ保存している酢酸菌があるんです。だからうちはうちで長年に培ってきた、昔からの酢酸菌をずっと残しています。その菌を使って次の世代、また次の世代ということで、どんどんずっとつながっていっているんです。

酢酸菌の効果は?

――お客様は酢酸菌や濁り酢など、どんな効果を訴求しているんですか?

私はよくわかりませんが、お酢の効果とあまり変わらないと思っていました。

お酢を造っているのは酢酸菌ですから、その酢酸菌の効果イコール酢の効果になると。

ただ、どうして酢酸菌なのかと言われると、難しく、今は、各お酢屋さんも研究しているようです。
業界でも健康食品として酢酸菌などを詳しく研究し販売する会社があるそうです。

ネットでは花粉やホコリの飛散による鼻のイライラを和らげるとの効果が期待できる。
私も調べてみたいなって思って、今はそのデータを見て、酢酸菌はこういう働きがあるんだ、というのを知りました。

うちが酢酸菌を勧めているわけではないのですが、お客さんのほうから酢酸菌を求めて。やはりテレビとかで出てきて、酢酸菌がこんなに注目されているんだということを改めて知りました。
私たちにとっては酢酸って身近なものですので、これがそんなにいいとか悪いとかっていうことは全く考えない、むしろ酢を作る菌ですから、酢酸菌は当たり前の菌ですね。

酢酸菌

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発酵90日、熟成90日

――発酵90日、熟成90日間という期間に対して、どんな経緯がそこにたどり着いたんでしょうか?

これはうちのほうで実践的に分かってるんです。

4,000リットルの仕込みタンクの発酵がお酢になるまで約3カ月。3月から12月をお酢の仕込み時期としており、大体平均して90日かかります。

そしてできあがったのを、今度は商品になるための熟成期間というのを設けているんですけども、その熟成期間でやはり最低3カ月。

熟成期間

――熟成90日間、味が落ち着くと。

そうです、まず発酵はスタート酸度が2パーセント台で、出来上がり酸度を5パーセント台まで持ってゆきます。
2パーセント台からスタートして、プラス3パーセントできあがるのに約3カ月かかります。

3か月間タンクの上部で発酵します。空気を取り込み、タンク表面のアルコールを 酸化させ酢酸が生まれます。
そして酸は重たいですので下に移動し、上へアルコールが上がる。そんな置換作用を行って徐々に表面発酵のアルコールが酸に変わっていく。だからゆっくりでいいのです。

そしてそのあと、できたすぐはまだ酢カドがあります。口に含むとビリッとくるんですね。
それを、空気に触れさせることで、酢のカドが取れるんです。まろやかになるんです。それが最低で3カ月の貯蔵です。

貯蔵した酢中に空気を入れる(撹拌工程)ことによってよりまろやかになって行きます。ですから、言葉的にわかりやすく90日発酵、90日熟成って書くんですけど、実際はもっと長くかかって造っているんです。

――すいません、整理させていただいてもいいですか?もともと発酵し始めるときは2パーセントのアルコール度数が90日間かけて5パーセントになる?

2パーセントというのは酸度です。仕込みのアルコール度数は3パーセントで、そのアルコール度数3パーセントがだんだん置き換えられて、5パーセントの酢ができるんです。

――3パーセントのアルコール度数がそのまま酸度に置き換わるわけですね。

そうです。

――その後、初め酢カドが立っていたものを90日熟成させるとまろやかになると。それは具体的にはどんな作用で、何が変化しているんですか?

そこは、まずわかるのは味覚ですよね。
酸も、できあがったばかりの酸度が5パーセント。そこで3カ月間経ったら何が違うかというとそこは成分的に見ると、熟成をしているわけです。例えばワインとか清酒もある程度寝かせるといい味に変わります。まさしく経過したことによって発生する味の変化ですかね。

具体的に何がどうなったかというと、最初のツンと来る酸味がなくなって、まろやかになる。これは経年措置しかないと思うんですね。だからむしろ3カ月では弱いですので、私たちは場合によっては1年とか2年とか置く事もあるんですね。

――まろやかになるのが基準という。

そのためには、お酢と付き合っていかないとわからないです。変化もわからないんですね。そこら辺は経験しかないと思います。やはり長く携わっていると、そういうのが見えてくるんです。
今この時点での旨味、酸味、口当たりはどうかといことがわかりますので、そろそろ出せるね、ということは、やはり経験しかないですね。
私たちは大手さんの様にきちんと分析できる設備はありませんし、経費も掛ける余裕もありません。本当に零細ですね。そうなると経験しかないんです。そのためには貯蔵や熟成に気を使い、よい味を求めて寝かせるということです。

酢の健康効果

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経験

――わかりました。もう2つよろしいでしょうか?先程もともと青森県産を長野県産のりんごに変えたと。そのりんごを原料として選ぶ基準みたいなものはあるんですか?

基準というのはありませんが、たまたま私の知人の知り合いが長野のほうにいるんです。

で、今まで青森からりんごを購入していたのは、全て青果市場を通して来ていたのですが、どうしてもコストが掛かっているんですね。

ですから、今までは高いなりによかったんですけども、値段を据え置いている以上は、もっと原価コストを下げられないだろうかということを知人に言ったところ、「じゃあ友達が長野でりんご農家をやっているから、そこで話してみようか」。ということが今年の初めでした。

産地が今までの青森から長野になるわけですけども、りんごはたくさんありますので、来年できあがるのは長野産に表示も随時変えていきたいなと考えます。

お酢づくりの苦労

――年間どれぐらいの量のりんごをお使いになるんですか?

1回に大体900キロぐらいを、10回仕入れて9トンぐらい。そんなもんですかね。

――9トンのりんごを買うわけですね。

はい。実際は3回か4回ぐらい仕込みますから、1回に4トン。3回仕込んで12トン。そういうところですかね。

――最後なんですけど、今までアルコールを添加していたりんご酢から、無添加で仕込まれるりんご酢になると何か製法で大変だったこととかございますか?

このアルコール無添加のりんご酢に限らなくても、アルコールを精製してから製造というのはアルコールができているかできていないかという管理ですね。

経験的にはりんご以外にもいろいろやってますので、そんなに難しいというわけではありませんが。あえて苦労することはそれを酢に変える発酵が実は非常に気候に左右される事なんです。

発酵

真冬と真夏はちょっと難しいんですね。
しかしどうしても商品がないとき、 造らざるを得ないわけです。りんごなどの原料は冬に入荷しますので、冬場の仕込みは特に外気温や品温に神経を使います。

だから、あんまり寒くなってくると、部屋を保温したり、電気毛布で巻いたりとか、結構気を使うんです。温度が冷えないように。だから、酢仕込みのほうで苦労するところが多いですかね。

つまり、仕込中、品温は30度から35度ありますが、どうかするとこれが下がり冷えてしまう事があります。ですからそれを見極めて、再度仕込み直します。
再仕込みというのは、温度を加え、そして、新たな酢酸菌膜をそこに持ってくるんです。
37度、38度までボイラーで温度を上げて、そこに菌膜を入れ様子を見ます。品温が、30度になる前にタンク表面に菌膜を張ってくれたらいいんです。

で、その酢酸菌の膜が張ってくれると、醗酵が促されて再度活性化してくれます。その工程のタイミングが難しいんですね。

だから冬場とか、逆に真夏で暑いとどうしても菌が弱るんですね。そういうときの仕込みはちょっと苦労します。菌が生きてますから、菌の状態を考えながら酢を仕込まないとよい酢ができないですね。

――アルコールになった状態から酢に持っていくまでの管理は非常に繊細ということなんですね。

そうですね。むしろ酢になるところの発酵はちょっと注意しておかないと。
それと、アルコールを 造るときは、冬場がよく発酵してくれる。

というのは、お酒を考えていただくとわかりますけど、お酒、清酒は冬場の仕込みなんですよね。夏はしないんです。

あれは、酵母の菌が暑いと弱ってしまうんです。で、活性が強い冬ではどんどん熱を出して、お酒のアルコールをどんどん造ってくれるんです。温暖なお酢造りとは逆なんですね。

だから不可飲処置したアルコールを冬に造って置き、夏になるところでお酢に変えるというのがいいんです。
そうすると、両方にとっていい環境ですから、酢ができやすいんです。

だからたくさん不可飲処置したアルコールを前もって造り、それが気候が暖かくなってくれば酢にしようという。そういうことも工夫します。

今力を入れていること

――普段お酢を造っていらっしゃるときにどんなことを考えながら造ってらっしゃいますか?

普通仕事をしていて、特別なことは考えてないんですけど、大体酢を製造するにあたっては、どうしたらよい酢ができるかということですね。

あとは、昔ながらの製法を継承していきたいということで、今、力を入れているのは講演会なんです。

講演会

実は昨日も「ゆめさが大学」といって、高齢者の話の依頼を受けたので、そこでもちょっと話しました。
今はもう健康の時代ですから「病気になる前に予防としてお酢をとりなさい」と。それによっていくばくか、薬に頼らない体を作ると。

それは「1日1プラス」と言って、大さじ1杯、15ミリなんですけど、「1プラ酢」と書くんです。「1日に1プラ酢 大さじ1杯の酢をとりなさい」という、業界も含めて民間でもそういうことを推奨しているんです。

ですからこれからは皆さん、酢は少しの量ですから、そんなに健康食品と違って高価でないから、普段からお酢をとって、それも小さい子どもさんの時代からとってもらうと、絶対日本はもっと健康的な人が増えるし。
実はお酢はストレスを抑えてくれるということもわかっているんですね。ですから世の中いろんなトラブルとかも、酢を取り込む文化ができれば犯罪も減るんじゃないだろうかと。

――心の安定に、ということですかね。

そうです。だからそういう意味ではお酢は一番安くて手っ取り早くて身近にあるものですから、今から高齢化に向かいますからどんどん必要になるのかなと思いますね。

――右近社長、今おいくつで?

今年70になります。あとまだ5年ぐらいは大丈夫かなと思ってます。ちょうど18歳から後を継ぎ52年になります。昔は競争で結構大変でしたが、今も大変ですけど、やりやすいかも知れません。
インターネットの普及で全国的にアピールできるので。それと、いろいろなオファーがあって、OEMの依頼が増えているんですね。
だから、長野県のきび酢とか、愛知県豊田市の菊芋酢、黒酢、ブルーベリー酢とか。ほかにも全国から依頼が増えています。そこら辺がやりやすくなったと思います。

かわしまさ屋さんから、今非常に力を入れていただいておりますので、私たちもできるだけ協力をさせていただきます。

――ありがとうございます。微力ですが頑張ります。よろしくお願いします。今後ともどうぞお願いします。

サガビネガー



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この記事を書いた人

コンテンツ、写真撮影担当。暇があったらキッチンで発酵食品や保存食品を作ったり、写真を撮ったりしています。趣味は一人で映画に行くこと。