短鎖脂肪酸って何?知られざる健康効果とは

記事の監修

この記事は管理栄養士の方に監修していただいています

管理栄養士

影山敦久

管理栄養士、栄養教諭。子どもからお年寄りまで幅広い年代の方に栄養指導や料理教室を行うかたわら、特定保健指導にも携わる。得意分野はダイエットとスポーツ栄養。

最近よく聞く短鎖脂肪酸って何だろう?
体に良いらしいけど、具体的にどんな健康効果があるんだろう?
あわせて短鎖脂肪酸を効果的に増やす方法を知りたいと考えていませんか?

短鎖脂肪酸って何?

短鎖脂肪酸

短鎖脂肪酸とは、構造上に炭素の数が4個または6個の脂肪酸のことです。
短鎖脂肪酸の他に中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸がありますが、炭素の数で名前が決まっています。
短鎖脂肪酸は、ブタン酸(酪酸)やカプロン酸(ヘキサン酸)、酢酸やプロピオン酸、吉草酸やコハク酸、乳酸があります。
生理作用の違いから、乳酸やコハク酸は短鎖脂肪酸に含めないこともあります。
短鎖脂肪酸は研究段階ではありますが、さまざまな健康効果が発見されています。
短鎖脂肪酸が適度に生成されるためには、腸内細菌のエサである食物繊維や難消化性のオリゴ糖などをきちんと体に摂りいれる必要があります。
エネルギー量としては1gにつき2Kcalです。

短鎖脂肪酸と腸との関係

腸との関係

短鎖脂肪酸は、食物繊維や難消化性オリゴ糖、糖アルコールなどが大腸の腸内細菌によって発酵分解されて生成されます。
通常、食品は消化して分解された場所で吸収されるので、大腸での発酵分解を受けるためには大腸以前にある、胃や小腸で分解されない物質であることが条件です。
つまり、でんぷんや砂糖など、大腸に届くまでに消化吸収されるものは、基本的に大腸の腸内細菌による発酵分解を受けることができません。
そんな短鎖脂肪酸の特徴として、腸、特に大腸での正常な活動にとって無くてはならない成分です。
理由は主に2つです。

腸内環境の改善に影響する

短鎖脂肪酸がたくさん生成されると、大腸内のPHは酸性に傾きます。
この酸性の環境下では、有用菌が増えて、体に害をおよぼす菌を減らすことができ、腸内環境の改善につながります。

大腸のエネルギー源になる

短鎖脂肪酸は、大腸にある上皮細胞の貴重なエネルギー源です。
大腸上皮細胞は、水分や栄養の吸収、病原菌に対する粘膜のバリアを張る、といった役割を担っていますが、きちんと機能しなければ腸内フローラのバランスが崩れてしまうことで、炎症が起きる原因となります。
通常、細胞とは血液から運ばれてくる栄養を受け取ることで活動していますが、大腸の上皮細胞に限り、血液由来の栄養よりも、腸内細菌による発酵で作り出した短鎖脂肪酸を優先的にエネルギーとして補給する性質をもっています。

短鎖脂肪酸の健康効果

健康効果

短鎖脂肪酸の健康効果をそれぞれ解説していきます。

健康効果1 免疫力をUPする

免疫力をUPする

短鎖脂肪酸が生成されることで、免疫力の向上に期待できます。
短鎖脂肪酸の効果で、腸内が酸性にかたむきます。
この酸性下の環境では、体に有用な善玉菌が増えて体に悪影響を及ぼす悪玉菌が減っていき、腸内環境の改善につながります。
腸内環境が改善されると、免疫力の最前基地である腸内バリアの効力が高まり、免疫力のUPにつながることで、さまざまな病気を予防したり緩和することができます。
逆に、悪玉菌が増えて善玉菌が減っていくような腸内環境だと、バリア機能がきちんと働かず、ウイルスや病原菌をはじめとした侵入者が簡単にバリケードを突破してしまいます。
腸内環境を整えるためにも、短鎖脂肪酸をきちんと増やしていくことが大切でしょう。

 

参考:南江堂、柴田克己、奥恒行、基礎栄養学

健康効果2 便秘を改善する

便秘を改善する

前述したように、短鎖脂肪酸が適切に生成されることにより、腸内環境が酸性側にかたむきます。
そうなると、大腸を刺激する作用があり、腸のぜん動運動につながって便秘の改善につながります。
便秘の原因の1つに腸がしっかりと動かず、腸内の便が結腸などの大腸にとどまり、きちんと排出されないということが挙げられます。
便秘を改善するためには、この腸のぜん動運動を促進する働きのある短鎖脂肪酸を上手に利用することも良い方法と言えるでしょう。

 

参考:難消化性デキストリンの新たな生理機能
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bag/5/4/5_KJ00010156117/_pdf/-char/ja

健康効果3 インフルエンザへの抵抗力をつける

インフルエンザへの抵抗力をつける

動物実験の段階ですが、インフルエンザウイルスに感染させたマウスにプロピオン酸や酢酸などの短鎖脂肪酸を注射すると、インフルエンザウイルスに対する抗体反応が、より強くみられたとする内容です。
あくまで、研究段階であり、マウスと人を直接あてはめることはできませんが、今後の研究により、人でも同様の効果があるとする研究結果が出る可能性も否定できませんので、今後の研究に注目が集まります。
月並みですが、もちろん、インフルエンザの予防には手洗いやうがいが大切ですので、短鎖脂肪酸を摂ればインフルエンザを撃退できる、というわけではありませんので注意が必要です。

 

参考:高い周囲温度はインフルエンザAウイルス感染に対する適応免疫応答を弱める
https://www.pnas.org/content/116/8/3118

健康効果4 ミネラルの吸収を促進する

ミネラルの吸収を促進する

大腸内で腸内細菌が短鎖脂肪酸を適切に生成することにより、鉄やマグネシウム、カルシウムなどのミネラル分の吸収を促す効果があります。
仮に人間の体に腸内細菌が1匹もいないとなると、食品を効率的に消化吸収することができないため、栄養をとり入れていくことができず、生きていくことができません。
ミネラル分は体で作ることができないので、食品として摂りいれる必要があります。
腸内細菌の研究はまだまだ途上ですが、その研究結果の1つがミネラル分の吸収促進作用です。

 

参考:
①プレバイオティクスから大腸で産生される短鎖脂肪酸の生理効果
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jim1997/16/1/16_1_35/_pdf
②厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-035.html

健康効果5 食品の消化吸収を促進する

食品の消化吸収を促進する

短鎖脂肪酸が適切に生成されることにより、膵液などの消化酵素の分泌が促されて食品から栄養を効率的に摂取することにつながります。
消化酵素がきちんと分泌されないと、食品が消化されず、吸収もされません。
いくら栄養のある食事を心がけていたとしても、体に吸収されなければ意味がありません。
食べた物の栄養がそのまま体に100%吸収されることはまずありません。
せっかく補給した栄養をうまく活用していくためにも、間接的に体への吸収を促す作用のある短鎖脂肪酸がその方法の1つと言えるでしょう。

 

参考:短鎖脂肪酸の生理活性
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jos1996/46/10/46_10_1205/_pdf

健康効果6 ダイエットにつながる

ダイエットにつながる

短鎖脂肪酸がきちんと生成されることで、消費エネルギーの増大や、GLP1による食欲抑制作用によるダイエット効果に期待できます。
腸には多くの神経系が存在しています。
たとえば、緊張したりストレスを抱えたりするとお腹が痛くなるというような方は、脳で受け取った情報を神経系を介して腸にわたることで腹痛が誘発されるといった具合です。
短鎖脂肪酸が生成されると、交感神経を優位にして体内の消費エネルギーを増やします。
GLP1というホルモンの分泌も促されることで、食欲を抑えるので、適度な食事量で満足できたり、ドカ食いを防ぐことにもつながります。

 

参考①腸内細菌叢を介した食事性栄養認識受容体による宿主エネルギー恒常性維持機構
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/134/10/134_14-00169/_pdf/-char/ja
②酪酸誘発のGLP-1ホルモン分泌によるプロバイオティクスの有益な代謝効果
http://europepmc.org/article/med/23836895

健康効果7 コレステロールを減らす

コレステロールを減らす

短鎖脂肪酸には肝臓でのコレステロール合成の抑制効果があります。
コレステロールは悪者にされがちですが、細胞膜やホルモンの材料になるので人間にとっては必要不可欠ですが、体内での量が増えると脂質異常症をはじめとした疾患に関わってきます。
このコレステロールは食事で摂る量よりも体内で作られる量の方が多いので、食事制限したとしてもまったくの無意味とまでは言いませんが、あまり効果的では無いという意見もあります。
体のコレステロール合成機構に短鎖脂肪酸が関わっているといったことも、今後さらに研究が進むことで検証されて解明されていく部分も増えていくことでしょう。

 

参考:プレバイオティクスから大腸で産生される短鎖脂肪酸の生理効果
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jim1997/16/1/16_1_35/_pdf

健康効果8 大腸がん予防につながる

大腸がん予防につながる

研究者の間でも意見がわかれており、今後さらに研究されていくと思われますが、短鎖脂肪酸が適切に生成されると、大腸がんの予防につながるといわれています。
アポトーシスという、細胞が寿命を迎えて死んでいくメカニズムがありますが、このアポトーシスががん細胞でみられたり、本来のものではない、異常なたんぱく質を作り出す作用を抑制したりといった効果があるとの研究もあります。
日本人の死因の第一位であるがんの中で、さらに上位を占める大腸がんの予防に効果があるという研究の続きに期待が持たれます。

 

参考:プレバイオティクスから大腸で産生される短鎖脂肪酸の生理効果
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jim1997/16/1/16_1_35/_pdf

健康効果9 アレルギーを緩和できる

アレルギーを緩和できる

短鎖脂肪酸の効果として、アレルギーを緩和することができます。
アレルギーによる炎症反応を抑える働きの中心である、調節性T細胞が増えていくからです。
特に、短鎖脂肪酸の中の酪酸にその作用が確認されている研究結果があります。
花粉症をはじめとしたアレルギーを緩和する方法の1つとして、短鎖脂肪酸を増やす食生活が重要だとする意見があることも確かです。

 

参考:共生微生物由来の酪酸は結腸調節性T細胞の分化を誘導する
https://www.nature.com/articles/nature12721

短鎖脂肪酸の効果的な増やし方とは?

増やし方

短鎖脂肪酸は食品にも含まれていますが、限られています。
ですので、腸内細菌のエサである食物繊維や難消化性オリゴ糖、キシリトールやソルビトールなどの糖アルコールを摂取し、場合によってはサプリメントを利用するのもおすすめです。

  • ・食物繊維は、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維にわかれています。
    腸内細菌が短鎖脂肪酸を効果的に作り出すには、比較的発酵されやすいグルコマンナンやペクチンなどの水溶性食物繊維が必要です。
    水溶性食物繊維が多いキャベツや大麦、わかめや芋などを料理に取り入れるのがおすすめです。
  • ・イソマルトオリゴ糖やフルコトオリゴ糖をはじめとした難消化性オリゴ糖は、食品にも含まれていますが、1日に必要な量を摂ろうとすると相当量食べないといけないので、現実的ではありません。
    オリゴ糖の配合されたシロップやサプリメントを使用すると効率的に摂取できるのでおすすめです。
  • ・糖アルコールは、人工的に作られることが多くガムや飴に使用されていますが、自然には干ガキや昆布に含まれています。
    エネルギーが低く、虫歯になりにくいといった効果もあります。

Q&A

よく聞かれる疑問をQ&A方式で解説していきます。

脂肪酸って何ですか?
脂肪酸とは脂質に水を加えて分解したときに生成される有機酸で、脂質を形作っている成分になります。
この脂肪酸をもとにしてさまざまな脂質の種類が構成されています。
短鎖、中鎖、長鎖の違いって何ですか?
脂肪酸に含まれている炭素の数によって、わけられています。
炭素は2個ごとに生成されていくので基本的には偶数になります。
炭素数が4以下だと短鎖、6~10だと中鎖、それ以上だと長鎖と呼んでいます。
例を挙げておくと、短鎖脂肪酸は酪酸やヘキサン酸、中鎖脂肪酸はオクタン酸やラウリン酸、長鎖脂肪酸はパルミチン酸やステアリン酸などです。
この脂肪酸の違いで、さまざま生理作用の変化があります。
短鎖脂肪酸が含まれている食品は何がありますか?
バターやヤシ油に含まれています。
ただ、日常的に摂取するには、無理ではありませんが、難しい面がありますので、食品とともに短鎖脂肪酸のもとになる食物繊維や難消化性オリゴ糖を積極的に摂取すると良いでしょう。
短鎖脂肪酸を摂ると痩せますか?
確実に痩せると断言できるわけではありませんが、前述したように交感神経優位による消費エネルギーの亢進や、GLP1というホルモンによる食欲低下作用などが確認されている研究があります。
ただ、あくまで健康的に痩せるためには、短鎖脂肪酸ばかりに目を向けるのではなく、運動や食事全体の栄養バランスなどに気を配る必要があります。
○○ダイエットということがすぐさま流行になりますが、原則は定期的な運動と栄養バランスのとれた食事ですので、注意が必要です。
現在のエビデンスからみても、健康的に痩せる要素の1つとして、短鎖脂肪酸について理解して生活にとりいれていくというスタンスで良いでしょう。
短鎖脂肪酸で糖尿病を予防できるって本当ですか?
研究者の間でも意見はわかれていますが、糖尿病の予防や改善に期待できるという意見もあります。
内容としては、短鎖脂肪酸が糖尿病に効果があるというよりは、短鎖脂肪酸によって誘発されるホルモンの1種であるGLP1によるものです。
GLP1はすい臓のインスリンを出す細胞を保護しつつインスリンの分泌を促します。
2型糖尿病の治療にも使われている成分ですので、厚生労働省が認可しています。
また、アメリカ食品医薬品局にも認められています。
ですので、解釈としては、短鎖脂肪酸が直接糖尿病の治療に使われているわけではないということです。
サプリメントに頼って良いですか?
大腸内の腸内細菌が効率的に短鎖脂肪酸をつくるためには、食物繊維や難消化性オリゴ糖などが必要です。
基本的には、食事から摂取すべきですが、食生活や仕事等のライフスタイルの関係で難しい面があるでしょう。
そのようなときは、手軽に摂取できるサプリメントを適宜使用すると良いでしょう。
とくに年配の方はサプリメントを薬と捉えてあまり受け入れにくい傾向にあるように感じます。
サプリメントは薬ではなく、あくまで健康食品ですので、生活に取り入れやすいのですが、適宜専門家に確認し、きちんと内容を確認したうえで摂取すると良いでしょう。

●管理栄養士からのコメント

最近話題の、短鎖脂肪酸にはさまざまな健康効果が期待できます。

  • ・免疫力をUPする
  • ・便秘を改善する
  • ・インフルエンザへの抵抗力をつける
  • ・ミネラルの吸収を促進する
  • ・食品の消化吸収を促進する
  • ・ダイエットにつながる
  • ・コレステロールを減らす
  • ・大腸がん予防につながる
  • ・アレルギーを緩和できる

短鎖脂肪酸を効率的に増やすために、場合によってはサプリメントを活用し、難消化性オリゴ糖や食物繊維を積極的にとって、腸内細菌の働きを促進して、より健康的な毎日を過ごすきっかけにしていきましょう。

稲尾 貴子

管理栄養士プロフィール

◎影山敦久

管理栄養士、栄養教諭。子どもからお年寄りまで幅広い年代の方に栄養指導や料理教室を行うかたわら、特定保健指導にも携わる。得意分野はダイエットとスポーツ栄養。

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この記事を書いた人

パン作りと温泉をこよなく愛する2児の母。老後は伊豆で大きな犬と暮らすのが夢です。豆乳が好き、猫は苦手。