甘強酒造 みりん取材レポート: 伝統と革新が織りなす「飲めるみりん」の魅力

愛知県海部郡蟹江町、蟹江川沿いに位置する甘強酒造は、文久2年(1862年)の創業以来、160年以上にわたりみりん造りの伝統を守り続けている醸造元です。かつて湊町として栄え、みりん醸造に適したもち米の産地であり、水運に恵まれた蟹江の地で、山田平八(初代山田平左衛門)によってみりん造りが始まりました。

みりん 甘強酒造 登録有形文化財の蔵と倉庫
みりん 甘強酒造 登録有形文化財の蔵と倉庫

歴史が息づく醸造所と建物の変遷

甘強酒造は、その歴史を物語る貴重な建築物が敷地内に点在しています。

特に、1937年(昭和12年)に竣工した旧本社事務所は、蟹江町初の鉄筋コンクリート造りの建物であり、愛知県西部に現存する数少ない近代建築として、国の登録有形文化財にも登録されています。

みりん 甘強酒造 旧本社事務所と蟹江川
みりん 甘強酒造 旧本社事務所と蟹江川

その他、明治から大正期に建てられた工場や住宅主屋、住宅土蔵も登録文化財となっており、みりん造りが家内工業から近代化へと歩んだ変遷を示す産業文化遺産として評価されています。

創業当初はみりん専業でしたが、1940年頃の戦時中にみりんの製造が制限されたことを契機に日本酒造りも開始し、今では全国でも珍しいみりんと日本酒の両方を手掛ける酒蔵となっています。

歴史的な建造物とみりん用タンク
歴史的な建造物とみりん用タンク

さらに、時代に合わせて甘酒、塩こうじ、うなぎのたれなど、多角的な商品展開を進め、海外への輸出も全体の15%以上を占めるまでに成長しています。代表取締役社長の山田洋資氏は、こうした時勢に応じた変化こそが、会社の継続と発展に不可欠であると語っています。

甘強酒造は1999年に清酒・みりん製造元として初めてオーガニック認定工場を取得。

そして2022年には、気候変動への取り組みとして、脱炭素を目指す国際認証であるSBT認定も取得しました。

甘強酒造 SBT認定証
甘強酒造 SBT認定証

飲めるみりんの秘密

甘強酒造のみりんは、その品質の高さから主に料亭や蕎麦屋、うなぎ屋などの業務店向けに出荷されていますが、近年ではそのまま「飲めるみりん」としても注目を集めています。

みりんの主成分はもち米由来のブドウ糖であり、砂糖のような直接的な甘さではなく、複雑で控えめな甘みが特徴です。また、料理に照りやツヤを与え、約14%含まれるアルコール分が煮崩れを防ぎ、生臭みを消す効果もあります。甘強酒造のみりんが持つ大きな特徴は、もち米と米麹が溶けて生成される天然のアミノ酸含有量が非常に多いことです。これにより、料理の味わいを一層引き立てるだけでなく、そのままでも美味しく楽しめる「飲めるみりん」が生まれるのです。

甘強酒造は厳選された良質な地元産の米を使用し、長年培った製法により、アミノ酸を豊富に含んだ、甘みと旨味が強く、後味すっきりとしたみりんを製造しています。

有機本みりん
有機本みりん

昔仕込みの本みりん:伝統が育む豊かな味わい

甘強酒造が造る「昔仕込みの本みりん」とは、創業以来160年以上にわたり受け継がれてきた伝統的な製法と、厳選された素材へのこだわりによって生み出される高品質な本みりんを指します。

昔仕込みの本みりん
昔仕込みの本みりん

甘強酒造は、かつて砂糖が普及していなかった時代の製法にならい、もち米を主原料とし、時間をかけて丁寧に醸造しています。この製法では、もち米と米麹がゆっくりと溶け合うことで、天然のアミノ酸が非常に豊富に生成されます。このアミノ酸が、みりん特有の複雑で控えめな甘みと、奥深い旨味の源となり、料理の味わいを一層引き立てる効果をもたらします。

また、甘強酒造の「昔仕込み」の特徴は、時間をかけて「ゆっくりと寝かせる」熟成工程にあります。彼らは熟成期間を長くするほど、みりんの「角がとれ」、甘みが非常にまろやかになると語っています。例えば、20年以上の長期熟成を経た「黒みりん」は、その芳醇な香りと上品な甘みから、もはや調味料の枠を超え、「飲めるみりん」としても高く評価されています。

このように、昔仕込みの本みりんは、厳選された地元愛知県産のもち米を使い、伝統的な醸造技術と長期熟成によって、甘みと旨味が強く、後味すっきりの、そのまま飲んでも美味しい「飲めるみりん」としての価値を持つ、甘強酒造の基幹商品のひとつです。

昔仕込本味醂の製造工程

昔仕込本味醂製造工程図
昔仕込本味醂製造工程図

甘強酒造が手掛ける「昔仕込本味醂」は、その名の通り、伝統的な古式醸造法に基づき丹念に作られる逸品です。製造工程は以下のステップで構成されています。

STEP
原材料の準備(もち米の処理)

みりん製造の基盤となるのは、厳選された原材料の準備です。

まず、国産のもち米を丁寧に洗浄し、蒸す工程を経て「蒸もち米」を調製します。甘強酒造では、主に地元愛知県産の、粒が大きく粘りのあるもち米を使用しており、これが甘みの強いみりんが生まれる秘訣とされています。

みりんの原料となるもち米。蒸し上がり
みりんの原料となるもち米。蒸し上がり
みりんの原料となるもち米
みりんの原料となるもち米
STEP
米こうじの製造

並行して、国産の米を洗浄・蒸し、これに種麹を加えて「玄米米こうじ」を製造します。

みりんの原料:麹づくり (写真では玄米麹を使用)
みりんの原料:麹づくり (写真では玄米麹を使用)
みりんの原料:麹の出来上がり (写真では玄米麹を使用)
みりんの原料:麹の出来上がり (写真では玄米麹を使用)
STEP
焼酎の製造

みりんの重要な構成要素である焼酎乙類は、玄米やみりん粕・米を洗浄・蒸した後に蒸留することで製造されます。この製法は、砂糖が貴重であった時代から受け継がれてきたものです。

みりんの原料:焼酎がつくられているタンク
みりんの原料:焼酎がつくられているタンク
STEP
もろみの仕込み

「蒸もち米」と「米こうじ」、そして製造された「焼酎」を丁寧に混合し、「もろみ」を仕込みます。この混合により、もち米と米麹が互いに作用し、みりん特有の豊かな風味とアミノ酸が形成され始めます。

みりんの原料:もろみの仕込み
みりんの原料:もろみの仕込み
STEP
糖化

仕込まれたもろみは、甘みを最大限に引き出すための「糖化」工程へと進みます。みりんの甘みは、もち米由来のブドウ糖が主成分であり、砂糖の直接的な甘さとは異なり、複雑で奥深いひかえめな甘さが特長です。

STEP
精製ろ過と圧搾

糖化が完了したもろみは、まず精製ろ過にかけられ、その後、圧搾されます。この圧搾工程によって、みりんの液体成分が抽出され、同時に副産物として「粕(酒粕)」も得られます。

STEP
貯蔵・滓引き(熟成)

抽出されたみりんは、貯蔵庫でじっくりと熟成されます。甘強酒造では、熟成させたみりんの製造にも力を入れており、熟成期間を経ることで甘みがよりまろやかになり、深みが増すとされています。貯蔵後には「滓引き」と呼ばれる工程で、沈殿した不純物を取り除き、みりんの透明度を高めます。

STEP
火入れ殺菌

熟成を経て清澄になったみりんは、最終的な品質を安定させるため、65℃で60分間の火入れ殺菌が行われます。

STEP
容器充填

すべての工程を終え、殺菌されたみりんは、製品として容器に充填され、「昔仕込本味醂」として出荷されます。未開封の状態であれば、冷暗所保存で18ヶ月の品質保証期間が設けられています。

甘強酒造が目指すみりんの未来:食卓から世界へ

甘強酒造は、醸造の歴史と伝統を未来につなぎ、発酵食の魅力を世界に発信することを目指しています。本みりんという「芯」を大切にしながら、時代と共に変化を続け、製品を発展させていく考えです。

本みりん アメリカやヨーロッパにも出荷される
本みりん アメリカやヨーロッパにも出荷される

すでに海外への販売も開始しており、現在では売上の15%以上を海外が占めています。社長の山田洋資氏は、和食が世界中で拡大していることに触れ、これからも様々な国にみりんの良さをPRし、その価値を伝えていきたいと語っています。彼らの生み出す高品質なみりんは、和食だけでなく、多様な食生活に新たな価値をもたらす存在として、その未来が期待されます。

甘強酒造 山田洋資社長
甘強酒造 山田洋資社長

甘強酒造は、これからも本みりんという「芯」を大切にしながら、時代と共に変化し、発酵食の魅力を国内外に発信し続けることでしょう。彼らの生み出す「飲めるみりん」は、和食だけでなく、多様な食生活に新たな価値をもたらす存在として、その未来が期待されます。

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この記事を書いた人

動物、植物、夫、子ども、美味しいものとスターウォーズをこよなく愛する1児の母。かわしま屋に入って、腸内環境がとても良くなりました。
将来の夢はパーマカルチャー暮らし。