「菱六」助野彰彦さんの麹づくり講座 【その3.講義編】

麹づくりワークショップ

菱六の代表助野彰彦さんによるプロ向けの麹づくりワークショップ。
最終回は助野さんによる講義です。発酵や麹に関する知識全般が語られています。
(3日間のワークショップの講義部分だけを抽出しています。)

「種麹の歴史」とか「麹座の成立と衰退」とか、かなりマニアックな内容になっています。

種麹がどう進化してきたのか。麹座って一体何なのか。。そんな事を知らなくても美味しいお味噌や甘酒はつくれます。以下のレポートはお好きな方だけ読めば良いでしょう。

上質な麹の作り方を知りたい方は、一つ前の記事を読んでください。

【主な講義内容】

*麹づくりの合間に断片的に行われた講義を、分かりやすい形に編集してあります。

発酵とは

発酵とは
「微生物またはそれらの酵素の働きを利用して、材料や原料の性質を変化させ、
人間の役に立つ物質や食べ物をつくりだす手段のこと。」
厳密に言うと、微生物のはたらきにより有機化合物が変化する現象の事。

なお、「腐敗」は微生物が物質を有害なものに変化させる事。
人間に害を与えるか、どうかが発酵と腐敗の分かれ目になる。

麹とは

麹とは蒸した米・麦・大豆などの穀物に種麹を加え46時間程度の時間をかけてつくられたものの呼称。

麹を用いて日本酒、焼酎、味噌、醤油、甘酒、酢、みりんなどの「発酵食品」がつくられる。

種麹(もやし)とは

種麹(もやし)とは
種麹とは数多くある「麹菌」を用途に応じて単独、または何種類か混ぜ合わせて培養し、保存できるように乾燥させて麹の「種」として利用されるもの。
日本酒業界では種麹のことを「もやし」と呼ぶ。

麹の酵素「プロテアーゼ」と「アミラーゼ」

生物の体内で作られ、物質の化学変化のなかだちをするもの(国語辞典より)
麹菌にはタンパク質を分解するプロテアーゼデンプン質を分解するアミラーゼという2つの酵素があります。
プロテアーゼはタンパク質を分解して、旨味をつくります。
アミラーゼはデンプン質を分解して、甘みをつくります。

プロテアーゼはお米の表面のタンパク質を分解して旨味をつくります。破精回り(お米の周りのモコモコした菌糸)が強ければ、旨味が強い麹に。
アミラーゼはお米の内部のデンプン質を分解して、甘みをつくります。破精込み(お米の中に伸びている菌糸)が強ければ、甘みが強い麹に。

麹菌の種類によってアミラーゼとプロテアーゼの生産能力は異なります。
日本酒づくりには、酒米の糖化の為にアミラーゼ(甘みをつくりだす酵素)の生産能力が高い麹菌が使用されます。醤油やお味噌用の麹にはプロテアーゼ(旨味をつくりだす)が高い麹菌が使用されます。
また、麹づくりの品温経過(保温の際の麹の温度の経過)によってもアミラーゼとプロテアーゼの量は変わります。

一定の温度以上に品温を高めていたものはアミラーゼが多くなり、一定の温度以下に品温を保っていた場合はプロテアーゼが多くなります。
甘酒やお味噌づくり用に甘みも旨味も強い麹をつくりたい場合は、切り返し後に38-40度ぐらいに品温を高めてそのまま出麹まで品温を保つと良い。

世界の発酵食品

気候や生態系の違いにより、世界各国で多種多様な発酵食品が生み出された。

発酵食品の歴史
西アジア中央アジア・ヨーロッパでは、11000年程前から麦作が盛んになる。その後偶然が重なり、パンづくりが始まる。
牛や羊を飼い乳を飲む文化も有り、チーズづくりにつながる。

東南アジアや東アジアでは、10000 年前ぐらいから稲作がはじまる。
魚を食べる文化も盛んで、魚醤(うおびしお)、しょっつる、いしる、ニョクナム、ナンプラー等の発酵調味料づくりにつながる。
穀醤(こくびしお)や 味噌、醤油も作られるようになる。

主要な発酵食品
・乳製品(ヨーグルト)
紀元前5000年代に、中央アジアの草原で。遊牧民が家畜化した羊の乳を絞り
保存してあったものが偶然に発酵して出来た。

・パン
紀元前4000年代、それまで無発酵の平焼パンが食べられていた。
焼忘れで作り置きされていたパン生地に、偶然空気中の酵母菌がついてふくらみ、
それを焼いたところ、ふっくらした美味しい現在のパン(発酵パン)になった。

ビール(液体のパン)
紀元前4000年代に、メソポタミア文明。放置してあった麦の粥が偶然に発酵した。
その後、麦を粉にしたものでパンに焼き上げ、そのパンをちぎって水に加え、自然に発酵させる手法へ発展した。

麹の歴史

麹の歴史
「播磨風土記」(はりまのくにふどき:713年、奈良時代初期の兵庫県南部の風土記)には神様にお供えした御飯(当時はお米は蒸して食べられていた)にカビが生え、それで酒を醸して宴会をした、との記述がある。
清酒醸造に米麹を使用するようになったのは8世紀初めの頃と考えられている。このように穀物に自然に生えてくるカビを利用した麹づくりを「自然種付法(しぜんしゅふほう)」と呼びます。

種麹(もやし)の歴史
「延喜式」(えんぎしき:927年、平安時代中期の法令集)に米に、もやもやとカビが生えた状態を意味する「蘖(よねのもやし)」という言葉が記載されている。
当時は友種法(ともだねほう)で麹づくりが行われていた。友種法とは、前回できた麹の一部を次回の麹づくりに種麹として利用する方法の事。

「麹座」の成立と衰退
室町時代の初めは酒屋が300件以上あり、麹の製造販売権を独占する「麹座」が存在しました。とはいえ、当時の麹の質も現在ほど安定はしていなかったため、自分たちで麹づくりを始めた酒屋たちと麹座の対立が始まります。結果、酒屋の持っていた麹室は幕府に壊され、対立は1444年の文安の麹騒動にまでエスカレートし、北野天満宮が焼け落ち、麹座がなくなるという結末となります。

麹座とは、麹の製造と販売を独占的に行える組織の事。平安時代の終わり頃から、密造酒の取締りと酒税収入の確保のために、朝廷や幕府が設置。
許可を得たものだけが、麹の製造と販売を行うことができた。麹、種麹を売るのが特権的な地位になっていた。京都北野天満宮の北野麹座は有名。酒用だけでなく、味噌・醤油・甘酒製造用の麹まで取り仕切っていた。
その後、コスト削減とより良い麹づくりの為、味噌、醤油、甘酒、酒蔵が自分達で麹をつくり始める。文安の麹騒動を経て麹座は無くなる。現在日本残っている種麹屋は数社のみ。

麹菌の学名
1876年にドイツから来日した東京医学校の博物学担当教授のアールブルゲ(Hermann AHLBURG)が麹から力ビを分離しEurotium oryzaeと命名。
その後Aspergillus oryzae Cohnと改名された。

麹菌が国菌に
2006年10月12日麹菌(Aspergillus oryzae=アスペルギルス・オリーゼ)が国菌に認定されました。

麹づくりにおすすめの種麹と麹発酵器

・種麹の商品一覧はこちらから
ご覧いただけます。

・麹発酵器の商品一覧はこちらから
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*写真の一部は荒木美恵子に撮影していただいたものです。荒木さん有難うございました。

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この記事を書いた人

東京都出身。酉年生まれ。2児の父。趣味は読書と散歩と足のつぼ押し。
洗濯物をたたむのが苦手。煮豆と井上陽水が好き。