日本酒と健康ー太る?ヘルシー?ほどほどって?人生を豊かにする飲み方とは

日本酒と健康

「酒は百薬の長」ー中国漢時代の『食貨志』に、新の皇帝・王莽の詔(みことのり)の一節として載っているこの言葉。日本でも広まり、現代でもよく使われますね。

一方、鎌倉時代の日本では吉田兼好が『徒然草』で「百薬の長とはいへど、よろづの病は酒よりこそ起これ」とも書いています。

「薬」にするも「万病の元」にするも飲み方次第。

日本酒を気持ちよく、健やかに呑むために、知っておきたい情報をまとめました。

「酒は百薬の長」は昔の話?

「酒は百薬の長」は昔の話?

「酒は百薬の長」…お酒好きにとってはうれしい言葉ですが、元々は王莽という中国の皇帝の言葉。医師や薬剤師でないばかりか、中国史の中でも政策や人格が批判されることの多い人物…と言われると、ちょっと残念ですね。

現代の日本では、言葉が独り歩きしている感が否めません。

確かに、医学の医という字の旧字体は「醫」で、酒の旧字である「酉」が使われています。

古代の中国では患者の治療を薬酒で行っていたようです。

これはアルコールには薬効成分がよく浸出し、また体内にもすばやく吸収されたからです。

日本でお正月に飲まれる「お屠蘇(とそ)」も、そんな薬酒のひとつ。

日本酒やみりんにシナモンや山椒など数種類のスパイスを漬け込んだもので、無病息災と長寿を願って飲まれます。

薬酒ですから、当然、大量に飲むことはありません。

「お酒=薬」というのは、その頃の話だと考えたほうがいいでしょう。

アルコールを大量に摂取すると、急性アルコール中毒のほか、肝臓病、循環器疾患、すい臓病など様々な病気にかかりやすくなるといわれています。

お酒は「適量を守って」飲む、これが大原則なのです。

日本酒、「ほどほど」の量ってどれくらい?

日本酒、「ほどほど」の量ってどれくらい?

では、具体的にどのくらいの量なら身体の負担にならないのでしょうか?

国立研究開発法人 国立がん研究センター社会と健康研究センター予防研究グループによると、2010年に発表された日本人を対象とした研究で、全くアルコールを飲まないよりも、適量を飲んでいるグループの方が死亡率が低いという結果が得られたそうです。

飲酒量と死亡リスク/日本人男性

飲酒量と死亡リスク/日本人男性(出典:国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター予防研究グループWebサイト

飲酒量と死亡リスク/日本人女性

飲酒量と死亡リスク/日本人女性(出典:国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター予防研究グループWebサイト

この論文によれば、飲酒量は1日アルコール換算で、男性なら46g(日本酒2合)、女性なら23g(日本酒1合)程度にとどめるのが、死亡リスクを上げない飲み方だということです。

「日本酒2合までならOKか!」と喜びの声も聞こえてきそうですが、もちろん年齢や体質により、アルコールの影響の受けやすさは変わってきます。

欧米人を対象にした海外の研究では、より少量の飲酒でも影響があるという結果も出ています。

厚生労働省ではこれらの研究結果をふまえ、「節度ある適度な飲酒」として、1日に摂取するアルコール量を20g(日本酒1合弱)としています。

お酒はほろ酔い程度でやめておくのがよさそうですね。女性や65歳以上の方、お酒に弱い体質の方などはより少量の飲酒が適量だそうです。

目指すは、お酒も人生も楽しめる飲み方。

この後ご紹介する「身体にやさしい飲み方」も参考にしてみてください。

日本酒は悪酔いしやすいって本当?

日本酒は悪酔いしやすいって本当?

「日本酒は悪酔いしやすい」「二日酔いしやすい」…そんな噂を聞いたことがある方もいるかもしれません。

結論から先に言ってしまうと、悪酔い・二日酔いのしやすさに酒の種類は関係ないと考えられています。

頭痛や吐き気などの症状は、アルコールを短時間で摂取することでアセトアルデヒドの代謝が追いつかなくなり、血中濃度が高まることが原因。

それはどんなアルコール飲料から摂取するのでも変わりません。

日本酒のアルコール度数は約15%。たとえば約5%と言われるビールと同じペースで飲んでいたら、もちろん短時間で影響が出てしまいます。

日本酒には日本酒の飲み方、ペースがあるのです。

どうしても早いペースで飲んでしまうという方は、水やソーダで割るなど、度数を調節して飲むことをおすすめします。

日本酒の健康効果・効能

さて、「お酒はほどほど」を前提に飲んだ場合、日本酒にはどのような栄養や効果・効能があるのでしょうか?

栄養素としては、アミノ酸やミネラル、ビタミンB6が含まれています。

「薬」と呼べるほどではないかもしれませんが、特に女性にはうれしい効能がたくさんありそうです。

効果1 身体を温める効果

日本酒は中医学では「温」の食材として扱われ、血行を促進し、身体をあたためるとされています。特にお燗にするとその効能が高くなります。

身体を温める効果

効果2 抗酸化作用

米麹に含まれるデフェリフェリクリシンという成分には抗酸化活性があり、老化、生活習慣病、慢性疾患、がんなどのリスクを低減させる可能性が期待されています。

抗酸化作用

効果3 美白効果

米麹に含まれるデフェリフェリクリシンという成分には、強いメラニン抑制効果と美白効果が見られたそうです。

肌に塗布するだけでなく、摂取によっても美白になる可能性が期待されています。

美白効果

効果4 リラックス効果

日本酒には昔から人をリラックスさせる効能があると言われています。

実際に、日本酒にはGABAというストレスを低減する機能をもつアミノ酸や、GABA受容体を活性化させる成分が含まれていることが分かっているそうです。

リラックス効果

日本酒は太りやすい?

日本酒は太りやすい?

お米から作られる日本酒。炭水化物のイメージが強く、「日本酒を飲むと太るのでは?」「糖尿病によくないのでは?」と考えている方も多いようです。

そこで、同じ醸造酒で比較してみました。

食品成分 エネルギ-(kcal) 糖質(※¹)(g) アルコール(g) アルコール18.5g(※²)
あたりの糖質量と酒量(g)
ビール/淡色 40 3.1 3.7 15.5 500
ビール/スタウト 63 4.6 5.9 14.42 313.56
ぶどう酒/赤 73 1.5 9.1 3.05 203.3
ぶどう酒/白 73 2 9.3 3.98 198.92
ぶどう酒/ロゼ 77 4 8.5 8.71 217.65
清酒/純米酒 103 3.6 12.3 5.41 150.41
清酒/純米吟醸酒 103 4.1 12 6.32 154.17
紹興酒 127 5.1 14.1 6.69 131.21
スイートワイン 133 13.4 11.1 22.33 166.67
梅酒 156 20.7 10.2 37.54 181.37
※¹炭水化物量から食物繊維量を引いて算出 ※²淡色ビールジョッキ1杯分(約500g)のアルコール含有量

主な酒類の成分(文部科学省食品成分データベースによる表を一部修正)

一見、ビールやワインと比べて日本酒のカロリーや糖質が高そうに見えますね。

でも、アルコール度数の高いお酒のカロリーが高くなるのは当たり前。

アルコール度数を揃えてみると、純米酒に含まれる糖質の量は淡色ビールの約1/3。赤ワイン、白ワインよりは高いものの、1合弱で1.5~2.5gほどの違いです。

また、アルコール由来のカロリーは燃焼されやすく、身体に脂肪として蓄積されづらいといわれています。

糖質制限されていたり、大量に飲んだりするのでなければ「どのようなつまみと一緒に飲むか」のほうがずっと影響が大きいのではないでしょうか。

どんなつまみにもよく合い、冷ややっこやナスの一本漬けでもおいしく飲める日本酒は、かえってヘルシーなお酒という考え方もできるのです。

身体にやさしい日本酒の飲み方

同じ量なら、どんな飲み方をしても身体への影響は同じ?

いえいえ、そんなことはありません。アルコールの影響は、飲み方によって大きく変わるのです。

実験で立証された「休肝日」の大切さ

実験で立証された「休肝日」の大切さ

「お父さん、毎日飲むんじゃなくて、すこしは肝臓を休ませないと。ちゃんと休肝日を作って!」

「休肝日」を作ると身体によい、日本ではよく言われることですが、欧米ではそのような概念はないそうです。実際に効果があるのでしょうか?

国立研究開発法人 国立がん研究センター社会と健康研究センター予防研究グループのWebサイトによると、同じ飲酒量(300~449g/1週間)の日本人男性で比較したところ、休肝日なしのグループは、週1~2日飲酒するグループと比較して、総死亡率が1.5倍になったそうです。

男性多量飲酒者での休肝日の効果

男性多量飲酒者での休肝日の効果(出典:国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター予防研究グループWebサイト

このデータによると、休肝日を設けているグループの間でも、飲酒量によっては同じ量を週3~4日に分けて飲むグループより、週1~2日でまとめて飲むグループの方が総死亡率が低いという結果もみられます。

一度に多量に飲む方が身体に悪そうなイメージですが(そしてもちろん、急性アルコール中毒の危険性もあるので注意しなければならないのですが)、それ以上に「毎日飲む」ということの方が身体によくないのかもしれません。

飲む量だけが問題なのではなく、「飲まない日を設ける」ことが大切なのですね。

身体にやさしい飲み方4箇条

1.食事といっしょに味わおう

食事といっしょに味わおう

古くから食中酒として親しまれてきた日本酒。食事と一緒にチビチビと、というのが日本酒の一般的な飲酒スタイルでしょう。

これは身体にとってはとてもよい飲み方で、食事と一緒に飲むことで胃の負担を減らし、栄養も摂れ、アルコールの吸収を遅らせることができます。

早食いするとお酒のペースも早くなるので、食事をゆっくり味わいながら、お酒も一口ずつ味わっていただくのがおすすめです。

身体にやさしい飲み方2 肝臓を助ける肴選び

肝臓を助ける肴選び

おつまみが含む栄養素についても少し考えてみると、より身体の負担を軽くできます。

肝臓を助けてくれるのはたんぱく質。

おつまみとしては、枝豆や豆腐、するめなどが、高たんぱく、低カロリーでおすすめです。

また、ホタテやあさり、牡蠣などはタウリンが豊富で、肝臓の解毒作用を高めると言われています。

アルコールを分解するときに必要な栄養素・ビタミンB1を含む食材もおすすめ。

メニューに豚肉料理やぬか漬けなどを加えるのもよさそうです。

身体にやさしい飲み方3 「和らぎ水」でリフレッシュ

「和らぎ水」でリフレッシュ

「和らぎ水」とは、日本酒を飲む合間にお水を飲むこと。

脱水になりやすい飲酒中の身体に水分補給ができるだけでなく、胃にもやさしく、アルコールの吸収もゆるやかにしてくれるのです。

口の中をリフレッシュし、次の一杯をよりおいしくいただける効果もありますよ。

身体にやさしい飲み方4 週に2日は休肝日

週に2日は休肝日

最も身体にやさしいのは、晩酌を習慣にせず、週に1~2日のお楽しみにすることです。

「毎日飲みたい!」という方でも、身体のためには週に2日は休肝日を設けることをおすすめします。

その場合は「5日飲んで2日休む」のではなく、「2~3日飲んで1日休む」というように習慣づけするとよいようです。

お酒を飲まない日は映画を見る、ジムに通う、家族と過ごす、好きなお茶を選ぶなど、他の楽しみを習慣づけると長続きしやすいかもしれません。

日本酒はゆったりと、ほどほどに。

余裕をもった飲み方で豊かな時間を過ごしてください。

日本酒と健康についてのQ&A

日本酒は菌に健康効果があると言われていますが、日本酒を摂取すると酵母由来の栄養や効果が得られるのですか?

日本酒の醸造に使われる清酒酵母には様々な機能性成分が高蓄積されているとされ、中でも肝機能や関節、うつなどへの効能が期待されるS-アデノシルメチオニン、水溶性ビタミンの一種である葉酸などが注目されています。

また、2014年には睡眠の質を高める効果も発表されて注目を集めました。

ただし、これらはあくまでも清酒酵母そのものの話であり、日本酒を摂取することでこのような効果が得られるという研究結果はまだないようです。

入浴しながら日本酒を飲み、雪を眺める…これ、健康に悪いですか?

湯船での雪見酒や花見酒…日本らしい風情もあり、贅沢な時間ですが、実は身体にはあまりよくありません。

特に酩酊しながらの入浴は、心臓にも負担がかかり、転倒などの危険もあります。

雅な気分を味わう程度にとどめることをおすすめします。


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この記事を書いた人

パン作りと温泉をこよなく愛する2児の母。老後は伊豆で大きな犬と暮らすのが夢です。豆乳が好き、猫は苦手。